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「また雲が出てきたけれど、明日の馬場での演習は、予定通り行うのかしら?」
「そうしてくれないと困りますね。さあ、戻って明日の用意もいたしましょう」
房に戻るのならば、二人っきりになれる機会は訪れまい。正体を明かして珱真と話をするつもりだった蒼呀は内心で落胆するが、今はまず、妹を捜し出す方が先だ。「じゃあ、ありがとうね、青嵐」とわざわざ手を振ってくれた珱真の姿を目に留め、心の慰めとする。
再び林苑に戻り、蒼呀は、木々の多いところを選んで奥へ奥へと分け入って行く。と、宮を区切っている高い牆壁に突き当たった。
この向こうからは別の宮になる。蒼呀は数歩引いて助走をつけ、側にあった木の枝を踏み台にして勢いよく飛び上がった。時に三丈(十メートル)も跳躍するという虎の脚力のおかげで、難なく牆壁の上に到達する。
見張りの兵に見咎められないようすばやく身を低め、壁の反対側も樹木の多い庭になっていることを確認し、すとんとそこへ降り立つ。そしてまた、木立に身を隠しながら悠々と城内を探索する。
(……ん?)
と、どこかからかすかな人の声がした。歩くにつれ、それが次第に大きくなっていく。
向こうの木の陰にいる複数の人影を見とめ、蒼呀は身を低くしてそちらに近づいてみる。が、何をしているのかに気づいて仰天してしまった。低木にさっと紛れ込み、息を詰めて様子を窺う。
木の陰にいたのは、二人の衛士と女官だった。衛士は女官の手を木の幹に突かせて深衣もろとも裳裾をまくり上げ、自らの肉槍を後ろから突き入れて思うさま腰を振っている。
「あぁっ……ああ、ン……」
「おい、早くしろよ。あとがつかえてる」
「まあ待て。まだ始まったばかりだろうが。何なら、もう一人適当なのを見繕って来いよ。女官どもなんて皆退屈しているだろうからな」
「ねェ、あんた。もっと深く……」
「おお、よしよし。可愛い奴だな」
女官が乱暴されているのではないのを確認し、蒼呀はそっと踵を返した。まったく、虎騒がせな。だがそれはともかく、皇城を守護する衛士が一体何をしているのだと呆れてしまった。見つかったらただでは済まないだろうに。
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