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――こんなこと、珱真じゃなきゃしないさ。特別だからな。
その言葉を聞き、胸がきゅっとくすぐったくなる。珱真としてもそうだった。友達は何人かいるが、こんな風に触れ合いたいと思うのは蒼呀だけだし、どきどきしたり、心騒ぐ気分になったりするのもまた、蒼呀だけだ。
――うん。ありがとう、蒼呀。
自分にとっても蒼呀は特別なのだ、と珱真ははっきり悟った。突然目の前に現れた、青い瞳の男の子。その彼が、まるで季節が色を変えるように、くっきりと心の中で彩りを増していく。ああ、そうだ。この時から少しずつ、蒼呀のことを意識し始めていったのかもしれない。
沈みゆく太陽が、山の端を赤々と染めていた。それを眺めながら珱真は、蒼呀のうなじから漂うほのかな汗の匂いを嗅いでいた。そうすることで、蒼呀に優しく包まれているような気持ちになったから。……
……ふうっと夢が途切れ、珱真はまぶたを開けた。身になじんだ敷布と牀が視界に入ってき、現実がいちどきに蘇ってくる。
「……、」
夢だったんだ、と切ない落胆が込み上げた。胸をまだふんわりと温めてくれているそれが遠ざかるのが惜しい。珱真はため息をこぼし、せめてもの思いで自分の身体に腕を回す。
と、傍らに気配を感じて驚いた。首をひねったすぐ横には、何と青嵐がいたからだ。そこそこの広さがある牀の上で、珱真を抱きかかえるようにしながら眠っている。
巨大な虎と同衾していたなんてと驚き、珱真は息を詰める。だが、怖さは感じなかった。青嵐の寝顔があまりにも安らかだったせいか、至極当然のこととしてこの状況を受け入れてしまう。
「起きたか」
帳の向こうから声がかかる。返事をすると、惠昌が顔を覗かせた。
「まだ寝ていろ。三日ぶりに帰って来たんだからな。今、水を持ってきてやるよ」
さぞ気を揉んでいただろう相手にほほ笑みかけ、珱真は言うとおりにする。
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