1章 宿命の再会

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 李が、檻の隙間から何の躊躇もなく手を差し入れる。蒼呀はそれに鼻先を擦り寄せ、べろりとひと舐めしてやった。  無意識に玉座から身を乗り出していた皇帝が、深く息をついたのが分かった。周囲の衛士らも、いまだ警戒を怠らないままながら緊張を緩める。 「お主には慣れているのだから、そうするだけではないか?」 「いいえ、いいえ。本当に人懐こい虎なのでございますよ。勇猛な見栄えを考えて牙は抜いておりませんが、大型の猫だと思えばよろしゅうございます。わたくしの横で腹をさらして寝転んでいることもたびたびでございますから」 「……うむ」  齢七十を迎える老皇帝は軽く膝を打ち、だが厳然と命じた。 「檻を開けてみよ。ただし、万が一のことが起きれば、李よ、その方の命はここで潰えるぞよ。虎一頭、商人一人を矛の錆にできぬほど、王城の衛士たちは鈍くはないでな」 「心得ております」  李は不敵に笑み、懐から鍵を取り出し鉄檻の扉の前に立つ。玉座の階を固めていた衛士たちが一歩前に出、矛先を向けていつでも突ける体勢を取る。  がちりと錠が外され、檻が開けられる。蒼呀はことさらにゆったりと腰を上げ、猫科の猛獣特有のしずしずとした歩き方で御前に罷り出た。 「……ほぉ」  皇帝を始め、その場にいる全員が息を飲む。  鉄檻から現れたのは、一頭の白い虎だ。体長は一丈(約三メートル)、堂々たる成獣で、四肢は太く、体毛に覆われてはいても、しなやかかつ強靱な筋肉がその身を覆っているのが分かる。艶がある密な毛並みに、精悍な面構え。瞳の色は白虎の特徴として、蒼穹のような青い色を湛えていた。  一身に集中してくる視線を感じながら、蒼呀は階の前でぴたと足を止めた。そして前肢を揃え、檻の中にいたせいで固まっていた背を思い切り伸ばす。その拍子にあくびが出たので、それ幸いとばかりに大口を開けて自らの牙を見せつけてやる。さらにはごろんと横座りをし、後肢でかしかしかしと頭の後ろを掻いた。人畜無害の、せいぜい大型の猫に見えるように。
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