1章 宿命の再会

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 蒼呀は、ここ赤繍(せきしゅう)の国の山奥にわずかに残っている人虎族の末裔だ。しかし今は正体を隠し、首都瑞安(ずいあん)を守護する中央軍にて兵士の職に就いている。  兵舎で人間の兵士たちと共に寝起きし、街を警邏しながらも、平素は農耕や土木工事に従事する日々。そんな堅実な毎日を送っていた蒼呀だが、ある日、東地方に住んでいる養い親からとんでもない事態を聞かされた。妹、碧淑(へきしゅく)が、人買いに攫われたというのだ。  妹もまた人虎ではあるが、彼女はヒトとしての質が強く出ており、蒼呀のように自由自在には虎の姿になれない。それゆえ普通の人間として、養い親と共に町中で慎ましい暮らしを送っていた。だがある日、買い物をしに市へ赴いた際、少し目を離した隙に悪党どもに連れ去られたと。  養い親たちはすぐさま東地方の役人庁に届け出を出したが、それだけでは心許なく、蒼呀がいる中央軍の兵舎に手紙を送って、碧淑の行方を探すよう取り縋ってきた。蒼呀はただちに地元兵に協力を仰ぎ、以前から目を付けていた、ならず者たちの溜まり場になっている街外れの廃寺へと踏み込んだ。地方で娘を攫ったならば、人買いたちは必ず都に来て彼女らを売り払うはずだと踏んで。  拐かしの首謀者はそこにいたものの、しかし一歩遅く、妹はすでに他の人買いへと売られたあとだった。捕らえた賊を拷問して得たところによると、おそらく都下にて売りに出され、皇帝の居城である朱慶城(しゅけいじょう)の後宮へと買われていくはずだろうと――  蒼呀の腹はすぐに決まった。一旦でも後宮に入ってしまったら、もう普通の手段ではそこから出してはもらえない。連れ去られて来たのだと言い張っても、撥ね付けられるに決まっている。ならば、自分も皇城に潜入してやろう。そう、自分にしかできない方法を使って。  赤繍は古代から、武力を持って周辺の小国を征服し、その領土を着々と広げてきた大国だ。今や中原で並び立つ国はなく、当代である叡陽(えいよう)帝は、いよいよ増してゆく栄耀栄華をほしいままにしている。  聞くところによると、叡陽帝は珍しいものに目がなく、属州から取り寄せた珍木珍石や玉、書画や陶磁器を愛玩するのが趣味であると。
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