1章 宿命の再会

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 だから思ったのだ。そんな皇帝に、神獣とも言われている白虎を献上したらどうだろう、と。つまり、ただの白虎になりすました蒼呀が、何食わぬ顔をして皇城の懐深くに入り込むのだ。そして、後宮で囚われているだろう妹を探して助け出す。逃げ出したあとはヒトの姿になってしまえば、追っ手が掛かっても捕まえることはできない――  蒼呀はこの計画を、兵士の中で一番の親友である高太義(こうたいぎ)に打ち明けた。根っからの軍育ちで多少のことには動じない彼だが、目の前で虎に変化した朋友を見てさすがに目をむき、大いに肝を潰していた。しかしさっそく計画に賛同し、蒼呀と共にあれこれ準備を始めてくれた。蒼呀は妹を探すから休暇を取るんだと、仲間に適当な言い訳をしてくれたのも太義だ。  頑丈な鉄檻に入れて持参した〈献上品〉のせいか、はたまた、偽造した大商人からの推薦状のおかげか、こうして今、金の玉座に掛けた御前への目通りを許された。李という適当な偽名を名乗った太義は、商人らしい身振り手振りを駆使し、皇帝の前で蒼呀を指して大仰に述べる。 「どうです、この堂々たる体躯。まさに百獣の王の名にふさわしいでしょう。しかも稀なる白毛に、碧玉もかくやという青い瞳。天地の神々が、大国を統べる皇帝陛下に使わした神獣に間違いございません」  実に興味深そうに白虎を眺める皇帝を見、蒼呀はおもむろに立ち上がった。意識してゆったりと歩を進め、息詰めて向けられる矛をよそに階を一段一段上がって行く。そして皇帝の絹の沓、その爪先に身を横たえ、腹が見えるようにして後肢を投げ出す。 「……ふむ。確かに、こちらへの敵意はないようじゃな」  太義がにっこりする。 「穏和なだけでなく、賢いところもございますから。それに何より、殿下が身にまとっておられる高貴な気韻を感じ取ったのでしょう。獣は正直でございますので」 「ふん。上手い口が言うのお」  だが満更でもない表情で、叡陽帝は寝そべる白虎を見つめる。蒼呀はさりげなく、自分の頭を屈めて相手の前に倒してやった。高義が具合良く「恐れながら殿下、頭を撫でてやってくださいませ」と声をかける。
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