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挨拶。
耳に息を吹きかけるのが挨拶でまかり通る国なんて聞いたこともない。同性相手とはいえ、どちらの国でもきっと立派なセクハラだ。
俺はつくりたての豆腐みたいになった右耳を片手で押さえながら、鳥遍野が叱りつけている方を見る。
――ああ、見えない。見えないのに声だけは聞こえてしまう。
「まあまあ礼。暁だって戸惑ってるんだから」
穏やかな声がやんわりと仲裁に入る。やわらかな物腰の男がこちらに近づいてきた。その隣りには、人懐っこそうな目で俺を見る派手な頭の男。
「俺を無視できる奴がこの世に存在するなんて不愉快だ」
「だよね。生まれてはじめての失恋に傷ついて、ちょっと意地悪したくなっただけだよね、アキちゃんは」
不機嫌な声に続いて、俺と目が合っていた金髪の男がちらりと笑って言った。おそらくはフォローのつもりなのだろう。が。
彼らと会ってまだ五分ばかりの俺にも、これは分かる。たぶんおそらくぜったいに、逆効果だ。
予感は見事に的中した。天罰とばかりに、ごん、と鈍い音がして、男は両手で頭を抱えた。暴力反対、と涙目で訴える、男。……。
「鳥遍野」
「何?」
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