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俺が声をかけると、呼んでいない彼らの視線までがこちらへと向けられた。
うっ、と言葉に詰まる。
非常に言いにくい。言いにくいのだが、いつまでも『男』と呼称するのは面倒だ。
それでは三人とも――細かく言えば鳥遍野と俺まで含めた全員が該当してしまうので、ただでさえ人の顔と名前を覚えるのが苦手な俺には大して区別がつかず、きわめてややこしい。
このままでは「ちょっと薄いが味わいがある」と評判の脳ミソがこんがらがってしまいそうだ。
だからといって、初対面でしょっぱなから不審がられるのは極力避けたかった。せっかく友人として引き合わせてくれた鳥遍野の立場もある。
縁あって紹介してもらった相手に、面と向かって「見えない」などと言えるはずがない。
そんなのは無礼にも程がある。「あいつキャラ空気だよねー」なんて、どこの女子の言葉だろう。そんな孫を持ったのでは、ばあちゃんが泣く。泣いてしまうじゃないか。
俺は涙腺を引き締めて、鳥遍野の声が向けられていた空間を透かし見ようと努めた。だがやはり、そこには何もない。
けれどもあとの二人の反応を見るかぎり、俺の目には映らないというだけで彼らにとって三人目は存在するのだ。たとえそれが、とうに死んでいる人間であろうとも。
ならば、この場においては俺だけが異質なのである。見えないでしまう俺だけが。
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