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車窓を流れる風景を眺めていた。
ここがどこかも知らない。どこへ向かっているのかもわからない。
ただ、流されてみようと思ったから、思いつきで買った切符を手に着のみ着のまま旅立った。
空っぽになった心には隙間風が吹いている。
心の窓も扉も固く閉ざしているはずなのに、どこから吹き込む風なのかわからない。
なんだかとても寒い。
この両目に映る景色もぼやけて霞んでいた。
青い空も海も色あせた絵葉書の写真みたいに見える。
海岸線にはちらほらと犬を散歩させる人がいたり、季節外れのサーファーが台風一過の荒波に向かって波と戯れているのが見える。
海はあらゆる命の源だ、というけれど。
あらゆる命が還る場所ということでもあるだろうか。
ふと、くだらない考えを振り払うように首を横に振ってみた。
たかが恋を失ったぐらいで自殺だなんて、とかつて他人事だと嘲笑った自分を思い出した。
死にたいほど苦しい気分をなめていた。
私は今、猛烈に「失恋による自殺願望者達の気持ち」が痛いほど理解できる。
これは経験した者にしかわからない辛さだ。
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