第一章 好きなもの、嫌いなもの

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「余命は、もって3週間ですかね。」 ある日告げられた真実の前に立っていたのは、孤独な僕だけだった。 そこまで驚きもせず、 「あぁ、そうですか。」 と、落ち着き払って納得してる僕には医者もびっくりしていた。 僕はというと、別に生きてても無駄なだけだし、そこまで悲しいとかっていうのはなかった。 ただ、買っている猫をどうするかにのみとても迷っていた。 「ご両親にはこちらから伝えましょうか?」 最近の医者の気遣いはここまでいくのか。 1人で納得していると医者が心配そうな顔をしていたので、答えておいた。 「別にいいです。葬儀にすらきませんよ」 高校生、という年齢の餓鬼がいうには、少し辛辣だったかもしれない。 「そうですか。ではまた、1週間後に来てくださいね。それではまた。風波くん。」 医者の笑顔に僕も作り笑いで答えながら、病院をあとにする。 「どうしようかな。3週間。」 僕にとっての問題は、先ほどの猫と、僕からしてありあまっている期間の使い方だ。 「何を...しようかな。」 その日はいつも通り家に帰り、レトルト食品を自炊して食べ、寝た。 いつもと何も変わらなかった。 「この子はいらない。」 「私だっていらないわ!あなたがひきとってよ!」 僕を間においての喧嘩は、耐えることはなかった。 優秀な弟も、どちらが引き取るかでとえももめていた。 僕はどちらでもよかった。 でも弟は毎回僕に言っていた。 「お兄ちゃん。もし僕達が離れ離れになっちゃったら、どっちかがどっちかをまた探そうね!そうやって見つけていこう!」 いつまでも前向きな弟が俺はただ羨ましかった。 人に愛されている弟を、本当は妬ましく思っていたんじゃないだろうか。 この悪い夢は何度目だろうか。 昔の事なんて、早く忘れたい。 喉の乾きを覚え、誰もいない家の1階へと降り、空っぽに等しい冷蔵庫を開け、水を飲む。 「あー。今日は、何があったっけ?」 月曜日の朝、普通の人は遅刻をしないように焦っている時間帯だろう。 「午後からでいっか。」 2階から降りてきた猫と共に、遅めの朝食を食べる。
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