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「おはよ。」
答えもしないとは分かっているが、誰もいない家の中では話せるのが猫しかいない。
「死ぬ前にお前の名前も決めないとな...」
2年ほど前に俺が勝手に拾ってきた。
名前を決めようとは思っていたが、いい案が出ず、2年も放置している。
「にゃー。」
何も悩みのなさそうな顔をしてこちらを見つめてくる瞳に、名前の事を思い出して少し罪悪感がある。
「食べな。」
自分と同じ柄の食器に買い置きしていた缶詰の中身を出し、与える。
いつもと同じ事をしてはいるが、余命のことが心の隅にあり、不思議な感覚だ。
「今日、午後から病院か。」
午前中は別にすることもないので、食事を終えると自室に戻り、本棚から適当に何冊か取り出し、ベッドに寝転ぶ。
僕は昔から、本が好きだ。
他の子達が遊んでいる間にも、僕は家で本を読んでいた。
なぜかと言うと、何も気にしなくて良くなるからだ。
一つの事だけに集中すると、何も聞こえなくなるという言葉があるが、僕の場合は特にそうだ。
聞きたくもない親からの御託や、周囲の音を妨げたい時は必ず本を開く。
「お兄ちゃん遊ぼ!」
「うん、いいよ。」
時には例外もいた。
弟は、いつも僕を遊びに誘う。
小さい頃1回聞いたことがある。
「友達と遊ばなくていいの?」
「お兄ちゃんと一緒の方が楽しいもん!」
「なんでそう思うの?」
「なんでだろうね~。難しいからよくわかんない!でもお兄ちゃんは本読んでる時つまんなそうなんだもん~!」
初めて人から見られてたということを感じた。
「そっか...。」
「だから遊ぼ!はやくはやく!」
弟に引かれ、家の庭に出てサッカーを始めた。
「お兄ちゃん。楽しい?」
不安げに聞いてくる弟は、本当に人を見ていると思う。
「うん、ありがと。」
「はぁ...。」
いつの間にか寝てしまっていた。
机の引き出しから、ノートを取り出し、1番最初の行にこうかいた。
「死ぬまでにやる事」
ふと、時計を見ると時間がとても過ぎていたことに気づき、家を出る準備をした。
「こんな時間になってた...。病院行かないと。」
慌てて1階に下りようとするが部屋に戻り、先程のノートをカバンの中に入れてもう一度出ていく。
「待っててね。」
猫に一言残し、病院への道を歩いていく。
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