海辺を走る

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☆  翌朝。同じ席で、陽造は列車が海辺を通っても顔を上げることができなかった。  昨日の少女が斜め前に座って英単語帳を広げているのが視界の隅に入っていた。陽造にとっては海を見るのが自然な習慣なのに我慢してうつむいていなければならなかった。  それがストレスで、その日は一日モヤモヤした気分が残った。  週末を挟んで、月曜の朝は、隣りの車両に乗った。  三日振りに気兼ねなく海を眺めることができた。理不尽ではあるが車両を替えるほうがストレスがない。  仕方ないか。陽造は、ほっと溜め息をついた。  尾崎駅でドアが開き、乗客が乗ってくる。  陽造の横にも、学生らしい青年が座って、空いていたシートは埋まった。  それにしても、なんだか窮屈だ。  陽造は足を閉じ気味にして、左右を見る。  左隣りにいま座った学生も膝と膝を合わせて行儀よく収まっている。  和歌山から乗っている右隣りの勤め人が、足を大きく開いていた。  こいつか。  陽造は自分の足を少し開いた。右足が、隣りの男の左足に触れる。相手が察して足を閉じないので、陽造はもう少し右足を開いて隣りの足に押し当てた。  たいがいは、あ、すんませんなあ、となってスウッと足を閉じてお互いにスペースを譲り合うものだが。  今朝の相手は大股を開いたままビクとも動かない。
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