1. 青天の霹靂、面倒臭がりと逃亡犯。

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   唐突な夜だった。 「……」  まず知らない男に必死の形相で詰め寄られた。凶器は無かった。けれど私を睨み上げる男の目が、凶器と称しても構わないくらい────鋭どさを宿して。  元を正せば私はただゴミを捨てに行っただけなのに。  朝は怠くて行きたくない。出勤はだいたい午後だし、昼まで私は寝ていたい人間だから、早寝早起きなんて有り得なかった。でもほら。あんまりゴミって溜めたくないし。それがたとえ生ゴミでなくても。プラスチック容器なんて嵩張るだけじゃない? だから結局深夜だけど出しに行った訳で。  そうしたらこの、今部屋の廊下で壁に背を付けて丸まってる男に入口で割り込まれて。部屋に入り込まれちゃったって言う話。  知らない男だ。多分バイト先の本屋の客でもない。チェーンの店とは言え、小さな規模の店だ。個人経営の店よりは、少し広いくらいの。だのに私の記憶には無い。  男は座り込んで空を睨み付けている。私の部屋の空気のそんなに何が、憎々しい気持ちになるのだろうか。男性が好きか否かは知らないけど、殺風景な程シンプルな部屋だと思うけどな。  私もいい加減腕組みながら男を品定めするのはやめよう。仁王立ちで突っ立ってる意味ってのも無い。  それにこの男は怪しいことこの上ないんだから、是非に出て行ってもらわねば。 「……ねぇ、」  私が何気ない風に声を掛けると、男は体を大きく一瞬痙攣させた。特に大きな声で喋った訳でも、怒鳴り口調だった訳でもないのに。何を考えてるのかさっぱり察しの付かないこの男に、私は続けて問い掛けた。 「あんた誰」  普通だ。普通の疑問だ。  だって相手は見知らぬ男。私の頭には何の引っ掛かりも取っ掛かりも無い相手。名前を訊くのは成り行きでも自然だ。  今この状況が、どれ程異常であったとしても。 「……」  しかし男はぴくりとも動かない。何。私の訊き方が良くなかったとでも?  けどもちゃんと見て見れば、男の目が和らいでいる。あの抜き身の刃のような、錆を知らない狂気の光が、今はなりを潜めている。やがて男は喋り出した。  それは、私の問いへの答えでは無かったけれど。  だがそれでも確実な、この異常極まりない現状の答え。 「……────俺は、人を殺した」 【to be continued.】
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