迷子のタッくん

＊＊＊　＊＊＊

「ママ、トマト！　トマトっ！」

「あらあら、トマト食べたいの？　でもこれ……お尻の部分が青いから、別のトマトにしましょうね」

（『転生』より転記）

＊＊＊　＊＊＊

こうしていとも簡単に、タッくんが拾ったトマトは別のトマトと交換された。拾われたトマトにとっては、九死に一生を得た場面であった。

―――尻が……青いのか……

その言葉にトマトの心が少しだけ傷ついたかもしれないと思うと、宇宙はちょっぴり不憫に思った。

「ムーカイとシェアハウスのみんなにバナナを買っていこう」

気を取り直して、宇宙はバナナの黄色い山に手を伸ばした。

『ぼくを連れて行かないでください……』

そんな声が聞こえたような気がして、伸ばした手がバナナの山の上で迷子になったかのように揺らぐ。

その刹那、一本のバナナが走り出した。運命との戦いに向かって。

おわり