迷子のタッくん

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丸谷スーパー。初めて来た。 自動ドアから中に入ると、まず客を出迎えるのが特選果物・新鮮野菜のコーナー。バナナの山。リンゴの山。きゅうりの山。人参の山。色鮮やかだ。 ふと宇宙は、トマトの赤い山の側に、三歳くらいの子供がいるのに気が付いた。トマトの山の一点をじっと見ている。 「ぼく、何か探してるの?」 「トマト」 「どのトマトがいいのかな。取ってあげようか?」 宇宙が子供の頭の上から手を伸ばすと子供が言った。 「自分で動いたやつ」 「は?」 伸ばした手を止め、子どもの視線の先を探る。隣のキャベツの山の中に一つトマトが紛れ込んでいるようにも見える。だがそれが「自分で動くトマト」かどうかはわからない。 「ぼく、名まえは?」 「タッくん」 「タッくんは、何歳?」 「三歳」 「ママはどこ?」 「あっち……あれ? ママ?」 とたんにタッくんは首を伸ばした。きょろきょろと見回す大きな瞳がみるみる潤んでいく。 典型的な迷子。宇宙も迷子のタッくんと一緒にママらしき人を探すために首を回した。
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