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梓の夢
「あのね?」
彼女は言う。
「私の夢はこの子をこの手に抱くこと。そして、成長を見守ること」
俺は彼女の髪を撫でる。
きっと、もうすぐ触ることも叶わなくなる艶やかな黒髪を。
「私の夢、叶うかな?」
白いベッドの上、自身の体の中で大きくなった生命を愛おしそうに両手で撫でながら彼女は微笑した。
俺は髪を撫でていた手を、彼女の手にそっと重ねた。
「ああ……きっと叶う」
俺がそう言うと、彼女は安心したように目を閉じた。
ベッドの頭の部分に嵌められたネームプレートには“片桐梓”と書かれている。
梓は2年前、橘の姓から片桐になった。
片桐春樹の――つまり、俺の妻になったからだ。
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