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諦めの悪い彼女
梓とは6年前の大学2年の春。アルバイト先の居酒屋で出会った。
俺が店員で、梓は客だった。
若い女の子が居酒屋に1人で梅酒を飲んでいる光景を、周りは物珍しい目で見ていた。
(……大丈夫かな)
すでに梅酒の瓶は4本空けられ、テーブルに転がっている。
それを片付けに行くと、彼女は虚ろな目で俺を見た。その目には何も映していないように思えた。
「……梅酒……ください……」
焦点が合っていない。それに、随分と目が赤い。泣いていたのは疑う余地もなかった。
「失礼ですが……。もうやめた方が」
俺がそう言うや否や、彼女はテーブルに突っ伏した。
「お客様!」
急性アルコール中毒だった。
すぐに救急車を呼ぶと、何故か俺まで病院へ連れていかれた。
「迷惑かけてごめんなさい……」
生理食塩水を点滴し、アルコールが抜けたのか、目を覚ました彼女は開口一番そう言った。
「いえ……。では俺はこれで……」
「あの、お名前は?」
「あー……。お礼とかそういうのはいいですから」
「そんなわけにはいきません。私は橘梓。M大学2年です」
名前は知っていた。看護師が彼女の所持品である学生証を確認しながら医師に伝えていたから。
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