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月が雲に隠れて真っ暗になった海を膝を抱えたまま眺める。携帯を見れば時刻は午後22時を少し回ったくらい。
波の音がどこまでも響いていて胸の中にもじわじわと広がってくるような不思議な感覚になる。結局明日も早朝から仕事だと言う遥都くんと龍弥くんは付いてくる事ができず、智志さんは何やらする事があるとのことで一人でこの場所にやってきた。
携帯のライトで砂浜を少し照らしながら今度はゆらゆらと散歩。雲の切れ間から月明かりが差し込んできたからライトを消して空を見上げたらキラリと流れる光が1つ。
「「あっ・・・・」」
流れ星。と小さく呟いた声が誰かと重なって後ろを振り向くと雅樹くんと目が合う。
「なんで雅樹くんがここにいるの?」
地元の人しか知らないこの場所は宿からそう遠い場所ではないけど岩のせいで海岸沿いの道から見にくい場所にあって普通に歩いてるだけじゃ見つけることはできないはずだ。それに彼はみんなと夕食に同席していなかったから私がここにいるのも知らないはず。
「んー、なんでだろうね。なんとなく、ここにくれば陽莉ちゃんに会える気がしたからじゃない?」
それはまるで最初から私がここに来ることを知っていたみたいで。いたずらっ子みたいなに笑う雅樹くんに呆れ顔を見せながらもう一度空を見上げる。
真っ黒なのに瞬きするたびに星がキラキラと輝きを増して呼応するように月の光も強くなっているように感じてしまう。
「陽莉ちゃんはどうしてこの島に来たの?」
いつの間にか隣に来ていた雅樹くんが砂浜に座りながらこちらを見上げて尋ねてくる。
「なんたら言ったらいいんだろうね。いろいろ。いろんな感情がごちゃ混ぜになって、それで…」
それで。
続く言葉に詰まってしまい何も言えなくなる。
海は、夜は心を寂しくさせるから。
空に投げたままの手を雅樹くんが掴んで指先から温もりが伝わってくる。
「みんな頑張りすぎなんだよ。この島に来る他の人達も、陽莉ちゃんも。」
そのあとに小さく「俺も」って呟いた雅樹くんの瞳は太陽の下で輝いていた碧じゃなくて夜の海を写していて真っ黒に見えた。
しばらく2人で無言のまま空を見ていたけど
「・・・・っくしゅ!」
せっかくいい雰囲気だったのにムードもへったくれもないくしゃみをしてしまい雅樹くんに笑われる。
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