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「夏とはいえ夜だと少し冷えるよね。風邪引いちゃうとせっかくこの島に来てくれたのにもったいないから少し名残惜しいけど帰ろっか。」
そう言うと雅樹くんは立ち上がって服や足についた砂を払う。私も立ち上がり同じように砂を手で払おうとするとすかさず雅樹くんが手を差し出してくれる。
「ありがとう。こんなことサラッとやってのけちゃうなんて雅樹くんは王子様みたいだね。」
軽い冗談のつもりで言ったのに雅樹くんが真顔になるから何か気に触ることでも言ってしまったんじゃないかと思ってしまう。
「あっ…何かまずいこと言った?」
申し訳なさそうに言うと雅樹くんはハッとしてから首を横に振ってまた笑顔に戻る。
「ううん、違うから気にしないで。えーっと、ほら!王子様なんて言葉初めて言われたからびっくりしちゃった!!」
そう話す雅樹くんは先ほどと変わらない態度なのでホッとする。
「それじゃあ行こっか。」
まだ出会って2日しか立っていないのに恋人にするみたく当たり前のように差し出される手を握り返していいのか分からずそのままでいると痺れを切らしたのかその手が伸びてきて私の手をギュッと握る。
「陽莉ちゃんは放っておくとすぐ迷子になりそうだから離れないようにね。」
そう言うと手を引いて宿までの道を歩き出す。どこから出したのかライトで私が歩きやすいように道を照らしてくれたので砂浜に足を取られることもない。
街灯もところどころしかない歩道もない道路を2人で歩く。ペタペタと雅樹くんの履いているビーチサンダルの音と波の音だけが聞こえて来るくらいあたりは静まり返っている。
雅樹くんに手を引かれながらぼーっと歩いていると急に「ねぇ」と声をかけられた。
「陽莉ちゃんってさ、テレビとかよく見る?」
突然話を振られたかと思えば特に当たり障りのない質問をされたので拍子抜けしてしまう。
「テレビですか?んー、最近はほとんど見てないかなぁ。だから流行りのものとか疎くって全然わからないんですよね。」
あはーっと苦笑いすると雅樹くんはこちらを振り向かないまま肩を揺らして笑う。
「そっか。そーだよねぇー…うん、そんな気がしたよ。」
なんだかよく分からないが私の答えは雅樹くんが望んでいたものだったらしい。少し前を歩いていた背中が私のちょうど隣にきてまた目が合う。
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