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「あの…さ、連絡先とか聞いてもいい?さっきみんなが下で交換してた声が聞こえてさ。俺も陽莉ちゃんの連絡先知りたいなって。・・・ダメかな?」
繋いだ手越しに少し力が入っているのが伝わって緊張しながら私に聞いた事がわかる。
あまり深くは考えず断る理由もないので二つ返事で了承すると雅樹くんは顔がしわくちゃになるくらいの笑顔を浮かべた。
「ありがと!」
「こちらこそこんな洒落っ気のない女の連絡先でよかったら全然教えるよ!私もしばらくは島に滞在するつもりだし連絡取れた方が便利だもんね。」
お互いの連絡先を交換し終えるとまた雅樹くんは私の手を握って今度は隣で歩く。
私の歩幅に合わせて歩いてくれているのかゆっくりと歩くその姿は見ているとなんだか少し面白い。
真っ暗だった視界も慣れてきて照らしたり消えたりする月明かりのお蔭もあり隣を見れば雅樹くんの顔が何となくだけど見える。
海岸沿いをぽつりぽつりくだらない会話をしながら歩いていると私たちが泊まっている民宿の灯りが見えた。
すると繋がれた手に少しだけ拒否が見えた。
足取りが重くなった雅樹くんを見るとさっきまではあんなにも笑っていたのに
「・・・雅樹くん?」
今にも泣き出しそうな表情を浮かべ私を見ている彼がいた。
もう一度声をかけようと口を開くと彼は夜空を見上げるように顔を上げる。
「へへっ…、急にごめんね。俺、もうすこし夜風に当たりたいから先に部屋に戻ってて。」
急に離れる温もり。
「待って」と声をかける暇もなく雅樹くんは夜の海へ走り出してしまった。
(1人になりたい気分…なわけないよね。)
このとき私はそっとしておいた方がいいと勝手に解釈して先に宿へ入る。
一人で帰ってきたことを康晴さんと淳子さんに伝えたらビックリしていたけど街灯がない道を年頃の女性一人で歩くのはあまり褒められることじゃないって怒られてしまった。
2人におやすみを告げて自分の部屋に戻る。
隣の部屋からは星が消え空が白むまで物音1つ聞こえなかった。
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