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久しぶりに体いっぱいに感じる人の体温に一瞬思考が停止したのち、一気に鼓動が早くなる。
「うぇっ!?あ…ま、まさっ…」
「あら、雅樹くん。おか~えり~」
我ながら色気もクソもない悲鳴を上げていると家の持ち主らしき人物の声が聞こえてその場にあったなんとも言えない空気を壊してくれる。
雅樹の体から離れたのち、声のした方へと目線を向けると小柄で優しそうな表情をしたおばさまが立っていた。
「淳子さんただいま。あ、この子浜辺で迷子だったから連れて来ちゃった!」
悪気のない笑顔で私の事を淳子さんと呼ばれた女性に紹介してくれるけどちょっと待て。いつ私が迷子になったなんて言ったんだ?
「あらまぁ…。こんな何にもない島で迷子だなんて可哀想に」
哀れむような表情を浮かべてい淳子さんに「違います!」と訂正してからもう一度目の前の人物に向き直る
「初めまして。波埼 陽莉と申します。本土から旅行でこの島に遊びに来ていたんですけどタクシーから降りた瞬間目の前の海があまりにも綺麗で…」
そこまで言ってふと思いだす。
そう言えばなんでキャリーケース持ってないんだろう?
「陽莉さんね。旅行にしては少し軽装過ぎない?着替えはあるの?」
キャリー…キャリー…キャリー…。
「あ!!!」
いきなり隣で大声を出したもんだから雅樹の体が少しビクついたけどそんなこと今はどうだっていい。
「あ、あの!!私、荷物…っ。キャリーケースをタクシーにそのままでっ」
慌てすぎてのちのちこの時の自分を見ていたら若干何を言っているのか分からないだろう言葉を淳子さんは理解したらしくひとまず家に上がるように諭してくれた後、この島に1つしかないタクシー会社に連絡を入れてくれて私を海まで連れて行ってくれたおじさんがわざわざ荷物をこの場所まで持って来てくれた。
「いやぁ~、車から出た途端に浜辺に向かって走りだすもんだから【きゃりーけーす】だったか?渡すタイミング逃しちまってよ…」
100%こちらに否があるにも関わらず謝ってくれたおじさんに仕事でもしたことないくらい謝り倒して行方知らずになるかもしれなかった荷物を無事に受け取ることができた。
「それで陽莉ちゃん、今日はどこか泊まる場所決まっているの?」
淳子さんのお家でお茶を飲んで一息ついていたところでそう尋ねる。
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