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何を話せばいいのか分からなくて意味もなく携帯を見たり消したりしていたら玄関の方から人の話し声が聞こえてくる。
「あ、誰か帰って来たのかも。」
私がそう呟くと雅樹くんは急に立ち上がって
「俺、人見知りだからまたね。」
そう告げると足早に居間を出て行ってしまった。私も夕食前にキャリーケースを部屋に運んでおきたいなと思い淳子さんを探して部屋を出るとちょうど帰って来たらしい他の宿泊客と思われる2人の男の子に出くわした。
「あ、女の子!」
「ここの宿泊客の方ですか?初めましてー」
見た目の軽さとは裏腹に丁寧な挨拶をしてくれた彼らに軽くお辞儀をする。
「あ、初めまして。波埼といいます。よろしくお願いしますね」
軽く挨拶だけして去るつもりだったのに手を掴まれて「夕食まで飲もうよー」と大学生っぽいノリで絡まれる。
「いや、私淳子さんに用事が…」
久しぶりにこんな間近で男性に触れたのでどうしたらいいのか分からずテンパっているとどこからこもなく手が現れて私と男の子2人の間に入ってくれる。
「遥都(はると)も龍弥(りゅうや)も酔っ払ってお嬢さんに迷惑かけなさんな。お嬢さん、ごめんなぁ」
突然現れたおじ様は申し訳なさそうに私に謝ると2人を引きずって居間の方へときえていく。
呆然とたっていると淳子さんが台所から顔を出して名前を呼ばれる。
「陽莉ちゃん、ちょっとこっちにきてくれるー?」
「あ、はぁーい」
ただの宿泊客が入っていいのか分からなかったけど呼ばれたのでおとなしく台所に入ると辺り一面に美味しそうな匂いが広がる。
「ふふっ。さっきのは近くの海の家でバイトするために来ている子達よ。それを引っ張って行ったのが旦那の康晴さん。かっこいいでしょう~!」
開口一番なぜか惚気られて反応に困っていると「冗談よ!」と言って笑われた。
「そんなことよりこれ、ちょっと味見してもらえる?この島特有の味付けのせいか食べられる人とそうでない人がいるからいつも味見して貰ってるのよ」
そう言って出された煮物は出来たばかりなのかホクホクと湯気を立てている。お箸を貰い、一口食べると食べたこともない味が口の中いっぱいに広がって一気に幸せな気持ちになる。
「淳子さん、これすごく美味しいです!」
「ほんと?よかった。それじゃあもう少ししたら夕食にするから待っててくれる?」
「あ、その前になんですけど…」
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