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淳子さんに泊まる部屋の事を話したらタイミングよく康晴さんが台所に顔を出す。
康晴さんに案内されて二階の部屋に行くと懐かしい畳の香りがする。203と札のかけられたその部屋は1人で泊まるのには広すぎるくらいでローテーブルにテレビとエアコンも付いている。カーテンを開ければ目の前には海が広がっていて景色も抜群である。
「わぁ、素敵なお部屋ですね!」
「この辺は海が1番な見所だからなぁ。布団は押入れの中にあるから申し訳ないんだけど自分で敷いてもらえるかい?足りないものとかあったら遠慮なく言って貰って構わないから…」
康晴さんはそう言うとお茶用のポットを置いて手を振りながら出て行った。さっそく窓を開けて波の音を部屋に入れる。昼間は体がべたつくくらい暑かったけれど日が沈んだせいか夜風が心地よい。
持ってきたキャリーケースから着替えを取り出して備え付けの小さなタンスに片付けていく。
ひと段落ついたところで夕食の呼ぶ声が聞こえてきたので部屋から出ると康晴さんが一人分の夕食をもって隣の部屋に入っていくところだった。
声をかけたけれど気づかなかったのか彼はそのまま隣の部屋に消えていく。
まぁいっか、また後で会うだろうし。
なんのためにこの場所に来たのかも忘れて軽い足取りで一階へ降りると居間には遥都さんとも龍弥さんとも違う男性が座っていた。
「あ、初めましての方ですね?同じくこの宿でしばらくお世話になります神楽坂 智志(かぐらざか さとし)といいます。よろしくお願い致します。」
ご丁寧に一度立ち上がりお辞儀をして挨拶してくれた彼はガッチリとした体型と小麦色の肌が似合ういかにも海の男って感じの人だった。
「ご丁寧にありがとうございます。波埼 陽莉といいます。今日からこちらでお世話になりますのでこちらこそよろしくお願いしますね。」
後からやって来た近所の子らしい美愛(みうな)ちゃんと康晴さんも混ざって5人で食卓を囲む。どうやら遥都さんと龍弥さんはすでに潰れているらしい。
みんな優しくて今までの窮屈な生活が嘘のように暖かい時間がそこには流れていた。
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