招かれざる客

11/11
前へ
/11ページ
次へ
そんな佳梛に香月が困ったように笑い、大きな身体を折って、佳梛の肩口にこつんとその額を乗せる。 甘えるような仕草がいつも自信たっぷりな香月には珍しい。 なんて思って為されるがままになってしまっていると、独り言のように呟かれる。 「分かってるのか、佳梛。どれだけ自分が魅力的な女なのか。」 何を言って、、、。 「そんなお前とこうして二人きりでいて、今、俺がどれだけ浮かれているのか。」 この男は今、何かの罰ゲームを受けてそんなことを言い出したりしたんだろうか。 でなければ馬鹿じゃないかと思う。。 佳梛なんかを(おだ)てたりなんかして。 「ならホテル行く?」 楽しかった今日の御礼に行っても良いかなって思う。 いつも助けて貰ってばかりで。 他に佳梛が香月に返せるものなんかないから。 なのに、その瞬間、香月が固まってしまう。 「……。」 ん? あれっ。 もぞっと、香月の頭が動いたかと思うと佳梛の肩にかかった髪の毛ごと、首筋にガブッと噛み付かれた。 「痛いっ。」 吸血鬼か!!この男(ー~ー#) 慌てて引き剥がそうとしたけれど、それより先に、また香月に抱きすくめられてしまう。 「いい加減にしろよ、佳梛。俺が今どんな気持ちで我慢してると思ってるんだ」 そんなこと言われても佳梛に分かる理由(わけ)がない。 「前にも言ったが、俺は佳梛を大切にしたいんだ。」 確かに前に聞いた。 あの時は鼻に噛みつかれたっけ。 でも、あれは佳梛に同情したからだと思ってたのに。 「本気だったんだ。」 心の中で呟いたつもりが、声に出てしまってた。 香月に鋭い目で睨まれる。 反射的にびくっとなった佳梛に香月は小さく嘆息して、視線を緩めた。 綺麗な顔の人に睨まれると、凄みが倍増して怖いんだって。 「ホントにお前は何にも分かってない。」 香月がその気持ちを切り替えるかのように小さく(かぶり)を降る。 「お前がどう思っていようが俺にとって、普段から可愛くて仕方ない佳梛が、今日はいつになくお洒落して来て更に可愛いんだ。」 いつかの羞恥プレイの再現なの、これは! 何て思う佳梛を置いてけぼりに香月は真剣な顔で、言葉を続ける 「その上に仕事場では無愛想で仏頂面なくせに、今はこんなに隙だらけで、俺は理性を保つのが精一杯だと言うのに。」 香月は佳梛からそっと視線を外し、さっきかぶりついた首筋をそっと撫でる。 「頼むから(あお)るなよ。」 その言葉は掠れて小さく(こぼ)れた 香月の腕の中はあんまり居心地が良すぎて、駄目だ。 その腕の中から出られなくなってしまう。 そうしてまた梶原のように放り出されたりでもしたら、佳梛はもう立ち直れない。 身に染みて分かってるはずなのに、 この腕の中から出たくない。 もう少しだけこのままで居たいと願ってしまう。 もう少しだけ。 あともう少しだけって。 それから、香月は佳梛をボロアパートまできっちり送り届けて、頬にキスひとつして解放した。 次のデートの約束を取り付けてから。 やっぱりそれ以上、手は出してこなかった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加