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「あの…、私、何か変?」
はっと息を吐くように香月が小さく笑う。
「違う、お前が笑ったりするから。」
ん~。
笑い顔が変だったってこと?
いつまでも浮かない表情の佳梛に、もう一度違うんだと香月が言う。
だから何が?と問う前に。
思わずといった感じに牧田くんが呟く。
「可愛い。」
はあ?
何が?
「沢渡さん、可愛い。」
「だから、何が?」
どこまでも察しの悪い佳梛に、たまりかねて香月が答える。
「佳梛が、だよ。」
「ふうん、何かドッキリとか、してるの?」
「してないっ。」
牧田くんが、思わず佳梛の両手をつかんで言う。
「沢渡さん、笑顔が可愛い。いつも可愛いと思ってたけど、笑ったらもっと可愛い。そんな風にずっと笑ってればいいのに。」
「……。」
彼は一体、何を言ってるの。
あからさまな牧田くんの発言に佳梛こそ何も言えなくなり固まってしまう。
掴まれた手が、熱い。
「あ、の…。」
「いつまで手を握ってるつもりだ。さっさと離せ。」
佳梛が手を離してって言う前に香月が我慢ならないとばかりに牧田くんの手を振り払う。
「ああっと、ごめんね。
沢渡さんがあんまり可愛かったから。ついうっかり手を離すのを忘れてしまいました。」
香月の感じ悪い態度は気にせず、興奮冷めやらぬ様子で佳梛に可愛いを連呼する。
これはなんの羞恥プレイなの!
もういい加減恥ずかし過ぎるんですけど。
「あれ。もしかして沢渡さん、照れてるんですか。」
覗き込む牧田くんから逃れようと反対を向くと、香月が眉間にシワを寄せた苛立ちも露な顔でタバコをふかしている。
衝撃的すぎて香月がタバコを吸いだしたことに全く気づかなかった。
微妙な空気の中、お昼当番待機中の牧田くんの携帯の呼び出し音がなり、牧田くんがしぶしぶ腰をあげる。
でも去り際に佳梛に言葉をかけるのを忘れなかった。
「いつも誰に何を言われても飄々としてるのに。今日は沢渡さんの可愛い色んな表情がみれて嬉しかったです。やっぱりこの裏庭に来ていて良かった。また後でね、沢渡さん。」
いやもう、いちいち可愛いは余計だから!
牧田くんの小さくなる背中に声にならない突っ込みを入れた。
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