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牧田くんと入れ替わりのお昼当番。
大至急病棟に来て欲しいと呼び出されて、仕事だから呼び出しがかかれば行かなきゃならないんだけれど、なんで来てしまったんだろう、と思った。
4階南外科病棟、403号室
そこにいたのは、須貝ひな子。
松田整形外科から、真瀬病院に戻ってきて、もう会うこともないはずだったのに。
「久しぶり、沢渡さん。ずいぶんお元気そうね。」
病院のレンタル寝間着ではなく持ち込んだパジャマに身を包んだ須貝さんは、入院中にも関わらずメイクをして、今日も可愛らしかった。
だからと言って、佳梛が須貝さんと仲良くする話なんかない。
「何か言ったら?」
「…。」
相変わらずだんまりの佳梛に、ふんと鼻をならす。
佳梛以外の人間の前では絶対しないだろう態度で。
「相変わらず地味で暗いわね、梶原先生はなんでこんな女に手を出したんだか。」
「…。」
須貝さんなど視界の隅に追いやり、佳梛はもくもくとここに来た目的の自分の仕事である掃除を始める。
床には何がどうなったのか、お昼ご飯であろう食べ物やら書類やらごちゃ混ぜに散らばりいろんな色を巻き散らかしていた。
ベッドの上からふんぞり返って床に這いつくばる佳梛を見下ろしては、気持ちよさげに笑っている。
「ねえ、私、面白そうなこと思いついたんだけど。あなたと梶原先生のこと、ここで暴露したらどうなると思う?」
よくもまあそんなつまらないことを思い付く。
まともに相手にするのも馬鹿らしい。
「ちょっと!あなた、クリーナーの分際で、ひな子を無視していいの。」
いつまでも知らんぷりの佳梛にヒートアップしてきた須貝さん。
たまたま通りかかった佐々木主任が、何事かと病室を覗き込むから、無視し続けるわけにもいかなくなった。
心の中でため息をつく。
「そんなことをして、困るのは須貝さんだって一緒でしょ。」
「そう思う?
ここはあなたの働く病院で、私は患者様。」
勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
ムカつくけれど、実際、須貝さんに有ること無いこと喋りまくられるのは困る。
佳梛は目立ちたくないし。
久々の平穏な日常を壊されたくないのに。
黙りこむ佳梛をしたり顔で睨む。
「梶原先生に、手を出さないでよ。」
さっき、梶原先生が手を出したと言ったくせに。
間違っても佳梛が梶原に手を出すわけなんかないのに。
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