招かれざる客

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これは佳梛が何かしたの…。 たまりかねて口を開く。 「あの、何かあった?」 「…。」 無言の香月なんて珍しくて、佳梛は居たたまれない。 「私、帰った方がいい?」 「駄目だ。」 香月が横目でちらっと佳梛を見やり、舌打ちする。 香月は強引でもいつも佳梛に対して穏やかで優しかったから、そんな態度に佳梛はますます立場をなくす。 車が路肩に停められる。 ビジネス街のそこが今日の目的地ではないだろう。 これは、車を降りろってこと!? 勝手に解釈した佳梛はベルトをはずし、外に出ようとドアに手をかける。 その時反対の腕を勢いよくひかれ、そのまま、香月に身体を預ける形になる。 うわっ。 「ご、ごめん。」 「だから、帰るなと言ってるだろう。」 「え、あーうん。」 香月が何に対して怒っているのか、全く分からない。 「ああもう、、。」 香月は前髪をかきあげながら、溜め息のような息を吐く。 「さっき、駅で。お前はなんで帰ろうとしてたんだよ。」 「なんでって、」 そんな事聞かれても…。 色褪せたワンピースがせいぜいで。 それでもお洒落してるつもりで。 香月とはつり合うはずもないのに。 それなのに香月の一言で振り回されてるような自分が滑稽で。 黙りこむ佳梛に、香月は改めて独占欲剥き出しで、ぎゅっと佳梛を抱き締める。 「俺はな、つき合えと言ったのは無理やりだったのは分かってるつもりだ。鈍感なお前の気持ちが追い付くまでちゃんと待っていようと思ってたんだ。 だけど、昼休みはいつも牧田が一緒で全然二人っきりになれないから、せめて食事にでも行って、お前と二人で居たかったんだよ。」 突っ込みどころはおいといて、要するに、どうして佳梛は帰ろうとしてたのかと、責めているのだ。 初めて香月が可愛いって思ってしまった。 まじまじと見つめてしまう。 「見るなよ。」 照れた香月が佳梛の頭を自分の胸に押し付けて視界から隠す。 そんな香月がますます可愛くて。 佳梛が忍び笑いを漏らした。
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