女とくだんの男

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 その梗概はこういったものでした。彼女は、元々フーゾクに勤めていたようです。彼は、初めてお店に出たときの顧客で、そのときはいかがわしい遊具を使い大変な目に合わせたそうです。そういったところへ行かない私でも、だいたいの見当はつきました。その後は、顧客としての関係だけではなく、プライベートでも付き合うようになり、案の定、囲われることになったみたいです。ただ、そうともなると、フーゾクで働かせる訳にはゆかず、彼自身の勤めるあのショッピングモールに雇用したのです。いってみれば、上司と部下になったのです。でも、彼の奥様にバレてしまい、会社に告げられたため、地方に左遷させられることになったと。  一方で、彼女も自分の可哀想な身上を語ってくれました。それは夫と離婚し、子どもの親権者になったものの、その夫の母親に連れ去られ、挙句、人身保護請求の弁護士費用が工面できず、取り戻すのを断念したことでした。 「あの人の妻になる気持ちなんてさらさらなかったわ。離婚さえすれば妻になってくれるなんて思い上がりもいいことよ。」  彼女の話を聴いて思い浮かんだのがカルマという言葉でした。もちろん、その定義を正確に知っていた訳ではありません。ただ、感覚的にしっくりとするだけでした。もっとも彼女にも男にもシンパシーは起こりませんでした。蔑むでもなく、でも、二人に対して、気品を感じていました。私は、そこを後にし、かんを頼りに地下鉄の駅へと向かいました。ただ、協力したからか、一応は、誘う素振りを見せました。しかし、その小心から、気づかないふりをしました。  彼女は、そのショッピングモールは辞めるつもりだと云ってました。だとすればもうこの女にも男にも会うことはないかという根拠のない考えを懐いてたのでした。
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