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女とくだんの男
半弦のアーチが架かった橋でした。ローゼ橋ともいうようです。夜ともなればライトアップされ、その淡いクリーム色の塗装ゆえ、電飾が真珠のように見えました。ふと見れば女性が佇んでいるではありませんか。アーチに背をもたげスマホに挿したイヤホンをしていました。実は、全然、知らない女性ではなかったのです。不思議と気になる存在でした。だから、ついつい視線を向けてしまいます。距離にして十メートルほどでしょうか。私を認め会釈してくれました。こういった場合、自分も会釈し、そのまま通り過ぎるのでしょうが、そうともいかない事情が存しました。もちろん、特段のものでもなかったのですが。
彼女は、この橋の近所にあるショッピングモールでレジを担当されている方でした。ただ、女性として、好みのタイプではありました。何分、瞳がつぶらでお人形のような方だったからです。だから、畢竟、いつもその方のレジに並ぶようになりました。しかし、私を認めるや、やや困惑の表情を浮かべるのも事実でありました。きっとなにがしかの迷惑を感じていらしたのに違いありません。だけど、私にしてみれば、どうせなら好みの女性のところに並ぶ方がいいし、そういった表情を見せるのは、裏を返せば、私のことを異性として意識しているからだと考えました。そんな事情から他愛のない会話を交わしたくなったのです。
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