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取り出した何本目かのタバコに火をつけようとして、そろそろ寒さに耐えられないと、諦めた。
喫煙所を出ようとした時、エントランスのガラス扉が開いて、スーツ姿の男女が入って来た。
彼だ。コートとビジネスバッグを抱えて、珍しく彼女が彼にもたれている。
男性の平均くらいの身長でそんなに大きくはみえないが、彼女が小さいので絵になる後ろ姿だ、と田口はボンヤリ思った。
そんな二人の後ろにもっそりと立つと、彼女が警戒するように彼にしがみつくのが分かった。田口は186もある大男だ。それが浮浪者のようななりをしていたら警戒されても仕方ないだろう。
エレベーターが開くと、彼は彼女を先に入れて、自分はボタンの前に陣取り、田口が入るのを待った。
(飲んできたのか…)
色白の彼の頬が、寒さにもかかわらずほんのりピンクを帯て、少しとろんとした目が色っぽい。
田口は何も気にしていない風に入ると、二人の反対側の壁にもたれた。
彼女は彼の背中にしがみつくようにくっついて、何やら呟き、彼はそれに頷いていた。
5階に着くと促されるまでもなく田口は先に降りて部屋に入った。
鍵をかけ、鍵のつまみに手をかけたままの姿勢で、二人が前を通りすぎる気配を待った。
「もー最悪~何あの人…」
お隣さんの声、答える彼の声は低すぎてわからない。
(今日は泊まるんだな…)
二人の気配が消えたのを感じて、サンダルを脱いだ。
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