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一目惚れして、浮かれて、自分をさらけ出して、欲望のままに同衾したは良いが、急に臆病風が吹いて逃げ出した…というところだろうか。
本気だからこそ、将来、綻びを生みそうな違いが気になるのだろう。
これまでの金田の恋愛が警告しているのだとすれば、致し方ない心理か。
とはいえ自分をダシにして逃れようとするのはいただけない。
「金田部長、僕の名前も言ったの?」
「いいえ、社内の人だとだけ」
「さすがに名前は言わなかったんだね…じゃあ、なんで僕だと思ったの?」
有馬の質問に勢いが削がれ、安原はマグカップに視線を落とし、細い肩を縮こまらせて、申し訳なさそうに話した。
「金田さんはセフレのあなたに遠慮してるんだと思って、だから、あなたのこと探りました。社内で美人の男っていうと皆さん有馬さんの名前を出したし、あなたが会社から出てきたのをみて、すぐにあなたが有馬さんだってわかりました」
金田はただ“美人”とだけ言ったわけじゃなさそうだ。有馬の容姿を細かに説明していたとみえる。
「あなたが金田さんと別れてくれたら僕が…、恋人になれなくても、たとえセフレでも金田さんの近くに居させてもらえるんじゃないかと思って…」
安原の熱意に若さを感じる。見た目以上に子供かもしれないとドキドキする。
「君、いくつ?」
「23です」
有馬より6つ若い。社会人一年目だろうか。
「金田部長の歳は知ってる?」
「今年40になるそうですね」
「老け専?」
「そういうわけじゃないですけど…あの人、凄いエロくないですか?」
顔をあげた安原の目がきらきらしている。
有馬は金田に性的魅力を感じないが、常に口説かれているせいで、エロ魔人なのだろうとは思う。
「男らしいイケメンだとは思うけど、僕の好みじゃないから、エロいかどうかわからないよ」
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