407人が本棚に入れています
本棚に追加
月曜の朝、有馬嘉津海は真っ先に謝罪に行った。
「ごめん、本当にごめん」
それ以上言うことはない。
ひたすら頭を下げた。
「有馬さん、大丈夫です。私も…、有馬さんが男だって忘れてて…すみません」
有馬の一番嫌な言葉だった。耳の奥に熱い血流を感じた。
しかしここは謝る以上の事をすべき時ではない。
「本当に悪かった」
「有馬さん、もうやめて」
原田芽依が泣きそうな気配がして、有馬は顔を上げた。
ブスではないが、可愛くもない、小柄なだけが女の子らしさの娘。好みでもなんでもない。なんでこんな子に謝る羽目になったんだ…と、有馬の心は面白くなかった。
半年もの間、何度も泊まったりしていたのに、一度だって欲情したこともなかったのに、なんで彼女にキスをして、なんで下着を脱いで自分のモノを彼女に見せつけてしまったのだろう。
今だってちっともそそられない。
しかし自分がしたことはしたこと。
「芽…、原田さん、もし…その…僕の事怖くなければ、残業の送りはいままで通りさせてくれないか?」
「えっ?」
「送らなくなってもし事件にあったりしたら嫌だから」
違う。
ヤレなかった後に送らなくなったら、やりたいから送っていたと思われそうで嫌なのだ。
「もう泊まったりしないし、エレベーター降りたら部屋まで行かずに、芽、原田さんが無事部屋に入るのを見たら帰るから」
原田は少し考える風なそぶりを見せる。
「芽依でいいです」
「えっ?」
「いままで通り芽依ちゃんって呼んでください。送りはエレベーターまでで」
「ありがとう!!」
奇妙な笑顔になっていないことを祈りながら、ホッとしてる様子を演じた。
この日、屈辱的な時間はまだ続いた。
最初のコメントを投稿しよう!