金田部長の憂鬱【番外】

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 手痛い失恋を3度してから、特定の恋人はいなかったし、決まったセフレもいない。これからも恋はしないつもりだった。  だから今の金田にとって相手は誰でも良く、快楽に溺れたい欲求を満たしてくれることが重要だった。  ところが、ここ何年も満足のいく快楽を得られていない。  有馬は優秀な部下だ。人間として信頼している。  しかし、身体に興味がある以上の感情を持ってはいない。  有馬を愛することはないと確信してるからこそ口説き続けていたのだ。  恋は絶対にしない。  外見が好みの男は避けてきた。  なのに…一目惚れをしてしまった。  安原康貴。  16も年下であるにも関わらず、夢中になってしまった。  出会いから二日間。  安原は、小顔で少女マンガの王子様のようなイケメンであるというばかりではなく、彼の仕種も、料理も、全てが金田の心を捕らえた。  一夜限りのつもりで、ネコだという彼を抱いてしまった。  抱いたのは最後がいつか思い出せないくらい久しぶりで、それはそれで至福の時間だった。  しかし、それ故にかえって抱かれたい気持ちが抑え難く苦しむことになっていた。  恋はしない。安原のことは忘れる。  そうは思っても高められた欲望はなかなか鎮まらない。これを解消するには満足のいく快楽を得るしかない。  一週間も悶々と過ごすのは辛いし、週末に売り専でも探すことも考えたが、なかなか満足のいく身体に巡りあえていない。  いつもは単なる興味に過ぎなかった有馬にいよいよ本気で抱かれるしかないと思い詰めていた。  有馬に恋人が出来てからは口説く回数を減らしていたのだが、今週は以前にも増して誘っていた。  今日の有馬のメールはその押しが効いたためだと思っていた。  個室のドアが開いて、金田は唖然となった。 「や、安原くん」  小顔で金田より本の少し背の高い安原は、白い長袖のTシャツにカーキ色のチノパン、デニムのジャケットを腰に巻いて、すらりとした身体をねじ込むように個室に入ってきた。ビールのジョッキを二つ持っていた。 「こんばんは」
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