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安原はそう言ってニコリと笑うと、真っすぐ金田の隣に来て、ビールをローテーブルに置き、座った。
上半身だけ安原から離れて、その凛々しい顔をまじまじとみた。
金田は混乱していた。
口を無駄にぱくぱくさせる金田を、安原はただ嬉しそうに笑顔で見つめ返している。
「どうしてここに?」
やっと声になった。
「金田さんに会いたかったから来ました」
好みの笑顔で、好みの声で言われ、不覚にも安原の“男”を感じ、下半身が疼く。
彼の全てが魅力的で、好きだと叫びだしてしまいそうだった。
こみ上げる感情を必死に抑えるも、身体は考えを裏切って気持ちを現らわしてしまう。
マズイと思って立ち上がろうとした。
しかし安原の手が肘を掴んでそのまま座らされた。
兆していることを悟られまいと膝に肘をついて頭を抱えた。
「君、ここの会員だったの?」
この店は一見さんお断り。
多くのゲイバーが会員制と表示しながら“男”なら誰でも入店できるのに対し、ここは会員の連れなしでは初めての客は入店できない。
一夜きりの相手を探す時、この店に繋がりがない所で探すか、売り専を選んでいる。行き付けで偶然の再会など煩わしいだけだからだ。
安原はここに繋がりがないと思っていた。もしここに来るには誰かと一緒でなければならないはずだった。
その誰かが安原と知り合えば、事前にわかるだろうと高を括っていた。
「いいえ」
「じゃあ、どうやって…?」
この店に来るようになったのは恋人を作らないと決めてからであり、ここに繋がりがある人とは関係しないことにしていた。
ゲイを公言しつつも、周囲に遠慮しながら生きている金田が、ありのままで飲み食い出来る数少ない店である。
ここは金田が自由を感じるための店だった。
有馬だけは連れてきていたが、それは今後肉体的関係に発展して、それが一夜限りでも、同僚という関係は消えないからだ。
「有馬さんが連れてきてくれました」
金田は恐る恐る顔を上げた。閉じられたドアを見、そしてゆっくりと安原を見た。
「有馬? 今、いるのか?」
「もう帰りました」
「知り合いだったのか?」
「いいえ、金田さんのセフレがどんな人か、会社へ見に行ったんです。あ、これって…、ストーカーですよね。すみません」
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