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それまで嬉しそうにしていた安原だったが、金田の動揺ぶりに、自分がしたことのまずさに気付いたようだ。
悲しげに、辛そうに瞳が揺れている。
「セフレが有馬だとは言わなかったはずだが…」
有馬をイメージしてはいたが、架空のセフレの名前など告げなかったはずだ。
「はい。有馬さんも違うと言ってました…」
なぜ有馬にたどり着いたのだ。有馬から何を聞いたのだ?
問い詰めたい言葉が渦巻いて言葉にならない。
目の前には悲しそうな顔の安原。悲しませている大元は自分だ。
金田は目を逸らして、手を膝の間で組んだ。
安原の悲しげな顔など見たくない。
彼が一夜で終わりにしたくないと言った時、自分が素直に受け入れていたら、彼は今苦しんではいないはずだ。
将来、捨てられて傷つきたくないという自分のエゴで彼にストーカー紛いの行動をさせたのだ。
組んだ自分の手を見ながら、心を落ち着けようとする。
いつものように“クールな金田部長”の仮面を被って、安原との会話を終わらせて、颯爽と帰ろう。
考えとは裏腹に、金田の身体は高ぶりを抑えられない。このまま自分から席を立つのは無理だ。
「どうして…有馬はここに来ない…」
「騙して、すみませんでした」
有馬は端から金田と逢い引きするつもりはなかったのだ。
金田は有馬のモノを受け入れやすいようにと20分もかけて自分を解してきていた。
愚かさと、情けなさと恥ずかしさとで苦しくなる。
よくよく考えれば有馬がちょっとやそっとのことで身体で金田を慰めようとするはずがない。
そして…気付くまいとしていたことに気付き、より一層股間が固く主張をはじめてくる。
自分の後ろを解しながら、夢みていたのは有馬じゃなかった。自宅の風呂場で準備している最中、想像していたのは、今、肩が触れるほど近くにいる安原の身体だった。
その安原の体温がすぐそこにある。安原のほんのり温かなニオイがする。
「どうしてももう一度金田さんに会ってお話したくて…」
「この間、言った通りだ。君と交際するかしないかの話なら何を言おうと無駄だ。帰ってくれ」
狂おしいほど安原に抱かれたい。その思いを振り払うように、感情を押し殺して言った。
「嫌です」
目眩がした。
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