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金田は大きく息を吐き、呼吸を整える。
目眩が引くとともに中心の高ぶりが和らいできた。
前屈みだった半身を起こした。
感情を殺した目で安原を見る。
安原は目を逸らさず、睨み返してきたが、唇が微かに震えていて、怯むまいとしているのがわかる。
その健気さを愛おしく思ってしまう。若くて無垢で…。
「僕が一回り以上も年下だからダメなんですか」
「年齢は関係ない」
もう無視するべきだ。話すことはないと言ったのだから、このまま突き放せ。
金田は心の中では安原を切り捨てようとしたが、出来なかった。
「君が純情すぎるという意味ならその通りだよ。君はまだ若くて恋の本当の辛さを知らない」
無視できないなら、乱暴にでも追いたてるべきだ。
冷たいふりして語ったところで、平行線なのだから切りがない。
無駄な時間だ。意味がない。
恋はしないと決めた理性が警告するも、語らずにいられなかった。
「これから私と君の歳の差分の月日を生きて、いくつかの出会いを経験して、オジサンになってからでなければ、恋に疲れた男の気持ちなんてわからないさ。僕は誰も好きにならない」
安原に出会うまでは、もう誰も好きになれないと思っていた。
好きな人に尽くし、裏切られ、別れる辛さはもう要らない。
安原を求めたくない。求められたくない。
「他の出会いの可能性なんて今は考えられない。それが若さ故の甘さだっていうなら否定しようもないけど、僕は金田さんが好きだ」
「一方的な気持ちじゃ恋愛は成り立たないんだよ」
一方的なんかじゃない。
安原の気持ちが自分自身の痛みのように感じるくらいに、金田も安原が好きなのだから。
これ以上、辛くならないうちにこの気持ちを殺したい。
「わかってます。でも僕が金田さんを諦められないのは、金田さんから愛されてると感じたせいです」
違う。愛してくれているのは安原の方だ。
金田はただ容姿に惹かれて、惚れて、安原の愛を貪っただけ…。
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