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安原とは身体を重ねるつもりなどなかった。一緒に楽しい週末を過ごして、後腐れなく別れるはずだった。
抱いて欲しいと言われて、欲望を止められなかったのが失敗だった。
「一緒に話をした時間も、食事も、凄い幸せでした。それから身体も…。これまであんなに気持ち良くなったことない」
安原の目が潤むのを見て、金田は目を逸らし、身体を横に向けた。
金田の下でイキっぱなしで痙攣していたあられもない安原を思い出して身体が再び熱を帯びてきた。
自分がそうなったことはあったが、させたのははじめてだった。支配欲が満たされ、自己効力感はなんとも言えない喜びだった。
反面、自分がそうなりたいという欲望もこみ上げた。
「一度きりと思うから特別な時間になっただけだ。恋人になれば毎回同じくらい満たされると期待してるなら大間違いだ」
「勘違いでも良いです」
「は?」
「僕は金田さんの側にいられるだけで良いです」
それはダメだ。それこそかつて自分がした失敗をさせることになる。
尽くして尽くして、弄ばれただけで、何も報われずに終わった本気の恋。
「そんな恋はしちゃいけない」
「じゃあ、諦めさせて下さい」
「何を言っても諦めないじゃないか」
忌々しげに舌打ちをして、顔だけ安原の方を向いた。
安原は落ち着いた声で言う。
「勝負しましょう」
静かな顔をぼんやり見返していると、安原が急に自信満々の顔になった。
「僕が金田さんを抱いて満足させられなかったら諦めます」
ぞわっと恐怖が込み上げて、金田はソファーから飛び上がるように立上がり、個室から出ようとした。
ドアノブを握る前に安原の手が金田の手首をとらえて引いた。
金田の身体は、感情と中心の昂りを抑えようとして震えた。
「怖い?」
安原は労るように金田の顔を覗き込んだ。
抱かれたい。でも抱かれたら終わりだ。
終わり。
何が終わるのか?
満足してしまったら? 別れに怯える生活が始まるのか? 次の別れを乗り越えられる自信はない。
満足しなかったら? このままの別れが確定するだけ? ここ数日の自分はそれを望んでいるのではないか?
「君はバリネコじゃないのかい?」
「僕はどちらでもいいんです。好きな人と気持ちいいことができれば」
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