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【月曜午後休憩/喫煙所/有馬】
金曜に安原をけしかけた顛末は、安原からの『ありがとうございました』の一行SMSだけでよくわからなかったが、金田部長の噂が聞こえてこないことや呼び出しのメールがないことから、なるようになって二人とも納得しているのだろうと思って気にしないことに決めた。
騙したことについて謝罪すべきかも知れないが、そのためにわざわざ有馬から連絡するのも違うと思っていた。
「か、金田部長」
ぼうっとタバコをふかしていたところにマスク姿の金田が現れて、慌てて姿勢を正した。
金田は鋭い一瞥をくれたが、軽く手をあげて挨拶すると有馬のすぐ隣に並んだ。
「あ…の、こないだは騙してすみませんでした」
軽く頭を下げる。
金田は頷きで応えた。
もとから目付きの悪い男なだけに、怒っているようにも見えるが、眉間にシワがよっていないところをみると、落ち着いた佇まい通りの感情とみて良さそうだ。
金田が上半身を横に傾けてくる。
一瞬、避けたい気分になったが、そのまま固まって待つと嗄れ声で囁かれた。
「ありがとう」
純粋にその言葉が嬉しくて、笑顔で頷き返した。
金田はもとの姿勢に戻って黙っていた。
「良かったです」
金田に恋人ができたならもう煩わしくされることはない。幸せならなお良い。
「良かった…のかな…」
そう言って金田は喉の調子を整えるように喉を鳴らした。
「お風邪…ですか?」
野暮な質問になるような気はした。
「お前の彼氏は大丈夫なのか?」
「え?」
「僕は身が持たん」
有馬はひきつった笑みを浮かべ、金田の耳にそっと囁き、聞いてみた。
「もしかして…抱き潰され、ました?」
金田の首筋が真っ赤になった。
有馬もつられて身体が熱くなった。
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