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よくよく襟元を見れば、キスマークらしい鬱血のあとが見える。
若い彼氏君は余程激しいとみえる。
「僕たちは…挿入は月に1日と決めてます」
金田は目を見開いて信じられないと言わんばかりに有馬をまじまじと見た。
「満足?」
「代わりに毎日口や素股で…」
言いかけて何を暴露してるのかと恥ずかしくなって口をつぐむ。
「怖くて頼めない」
金田は嗄れ声で辛そうに言って咳き込んだ。
「オッサンだからって飽きられたら嫌だとか、回数制限お願いしたら嫌われそうって思ってます?」
クールに決めて口説いてくる時の金田は苦手だが、まるで恋愛経験が乏しいかのように悩む姿は可愛らしく、恋人の田口の姿と重なりドキッとした。
「僕は安原くんじゃないから彼がどう思ってるかわかりませんけどね」と断った上でアドバイスすることにした。
田口との交際前と立場が逆転しているのが面白い。
「セックスだけのための付き合いじゃないなら大丈夫だと思いますよ」
これまで身体だけの関係に絞っていたことへの嫌味でもあったが、嫌みに気付いたのかいないのか、金田は腕を組んで俯いているだけでその心の内は読めない。
「僕はキスしたり抱きしめたり、それだけでも幸せです」
力一杯言い切ってから、ちょろりと舌を出す。
「まぁ、ヤりたいし、二人でイケるのが一番ですけど」
喫煙所から出る時に安原に『オッサン労りなよ』とSMSを送った。
帰宅途上で『大事にします』との短いレスを受信して、有馬はニヤリと笑った。
クールで大人な金田部長がイケメン青年の手の内で翻弄されていると思うと愉快だった。
口説かれるのはゴメンだが、惚気という名の憂鬱に付き合うのは楽しい。
安原は好青年だし、これからも楽しみだと思った。
【金田部長の憂鬱~完】
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