帝都へ

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「わかりました。川の手前まで森を行きましょう」  ミランダが折れた。  驚いた。  キリエルは議論に勝ったにも関わらず、難しい顔でクロードに行くぞと言った。  皇子であれば偉そうなのも当然かも知れないが、クロードはキリエルに言われて出発するのが癪でミランダを見た。  ミランダは地図を開いて、森の手前までのルートを示した。  その指の動きを隠すように、キリエルが手を翳して何やらとなえた。 「ちゃんと魔術師なんだな」 「お前…、呪術師も魔術師もいないとこの出身だろ」  思わず感心して呟くと、キリエルは呆れたように言い、御者台に上がった。  クロードはムスッとして正面を向き、キリエルから少し腰を離れたところにずらした。 「アルはお前を随分買ってるんだな」  沈黙がたえられないのかキリエルが聞いてきた。  クロードは昨夜の身体の疼きを思い出して恥ずかしくなる。  朝までずっとアルフのことを考えていたのだ。アルフの小姓になるつもりがないのに夜ばいはできない。同じ街にいる事実が我慢を辛いものにした。  また怒りがふつふつと沸いてくる。 「アルフ様がそういうならそうなんでしょうね」  無視しようかとも思ったが、突っ掛かるように答えた。 「…好きなんだ」  一瞬、自分のことを指摘されたのかと思った。 「もう十何年も前に諦めたつもりだったんだがな…」  キリエルは切なげなため息をついた。 「昨日は悪かった」  クロードはビックリして思わずたずなを打ってしまった。  軽くではあったが馬車のスピードがあがる。 「アルが誰かを好きになるのがたえられないんだ」  泣き出すのではないかと思えた。 「女遊びばかりしてるヤツのセリフとは思えないな」  戸惑ったが、つい鼻で笑う。 「遊びじゃない! 種蒔きだ」  キリエルが急に元気を取り戻す。 「遊びだろ?」  その変わり方と言動に戸惑い、呆れた。 「俺は自分の息子が欲しいんだ。一人じゃなく何人も欲しい。親父には妃が何人もいたのに皇子は俺だけだ…だから俺は…」  クロードはキリエルの皇子としての悩みをかいま見た気がしたが、ふに落ちない。 「ミラー様には無理だぞ」 「癒者にはできるって聞いたんだけどなぁ…」
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