旅立ち

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 海辺の小さな町ミディ。  大通りに挟まれて建つホテル・ラマルタはミディにおいてはエスメラルダ大公のご別邸の次に大きい建物だ。  クロードはその東棟の屋根裏から通りを見下ろしていた。  大公様の到着をお屋敷に知らせる先触れの早馬が駆けていったのを確認して、部屋を出た。  ご静養のためにご別邸の準備を終えたアルフ商隊がまもなくホテルに戻ってくる。  まだ昼前だから傭兵たちは軽く運動をするだろう。  手合わせを願おうと稽古着を着て待っていた。  中庭に入ると母と宿の女将が仕込みの準備をしていた。 「またそんなはしたない格好をして」  母がいつもの金切り声をあげると、女将がおおらかに笑ってなだめていた。  クロードの稽古着は動き易さを優先して切れ込みが多い。防具を付けたら気にならないが、付けていないと少し足をあげるだけで下穿きがまる見えだった。  沿海州の若者らしい小麦色の肌、焦げ茶色の髪。  すらりと伸びた手足。  鍛えてもまだムキムキにはならないしなやかな15歳。  クロードは黙って防具を付けはじめた。 「あなたは行儀見習いもせずにそんなことばかりに現を抜かして…」  年明けで義務教育が終わってから早7ヶ月、剣術の稽古しかしていないクロードは毎日そんな母の小言を聞かされていた。  普通ならば学業を続けない者は技能習得のための弟子入りをするか商家に行儀見習いの奉公に行くものなのだが、クロードは夢のためにそれをしていなかった。  教師をしている父や兄姉は、クロードの夢を本気にしていない。  母は反対してもクロードが強行するとわかっているようで、日々小言を投げかけてくるものの近い旅立ちを覚悟していると思われた。  ラマルタ剣術道場は義務教育中の子供たちが対象なので平日の夕方と休日の昼間だけだ。この時間には誰もいない。  まして今日は師範のブランドンが本業の関所警備の任務で不在だ。  義務教育があけたのに定職についていないクロードはブランドンの手伝いをして小銭を稼いでいた。  クロードは防具を付け終わると西側の大通りに出た。  普段は閑散としている町だが、今日は賑やかだ。  まもなく大公様御一家の列が通る。  人々は道の中央をあけ、ならびはじめていた。  クロードのお目当ては大公の末の妹君、ペルーラ姫。  大公は60を過ぎたはずだが、姫はまだ10歳。
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