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ペルーラに対しては守りたいという気持ちだが、アルフには守られたいと思っている。
しかし、それをアルフに知られたらきっと雇ってくれないだろうと予測していた。
異性にも同性にも恋をするということは沿海州ではそう珍しいことではないが、都の出のアルフが理解するかはわからない。
中庭で傭兵たちが稽古を始めた。
アルフ商隊には単なる雑兵はいない。傭兵は全員が完璧な警護を求められる。アルフ商隊の傭兵団にいるかぎり、稽古を欠かすことはできない。
稽古を怠るようではクビになる。怪我や老いのため求められる技能がないと評価された場合も同じだ。
クビといっても無下に切り捨てないのがアルフのやり方。その後の身の振りや当面の生活費が支給される。
しかしそれはそれまでの働き如何によるところが大きい。
今、クロードと剣を合わせている傭兵隊長オリビエは齢50手前で、アルフ商隊結成時から傭兵団にいる。
結成当時は激しい稽古もしたが今は余力を残すのも計算していた。
任務遂行のため必要な加減を心得ているのだ。
そういった隊長の判断力は部隊の指揮力にも顕著で、彼はまだ当分その地位を守って行くだろう。
老練なる傭兵隊長は脚で翻弄しようと試みていたクロードの剣を跳ね飛ばして打ち合いを終わらせると、稽古を他の者たちに託し、西棟の中庭を見下ろす3階の回廊へと上がっていった。
そこには赤髪を炎のように輝かせるアルフがいる。
クロードは一先ず休憩で他の者が稽古するのをみていたが、アルフとオリビエが難しい顔で会話しているのに気付いて不安げに眉をひそめた。
流れで隊長と手合わせしたが、もしかして今の打ち合いが入団審査だったのだろうか?
15歳になって実力があれば入れる…そう聞かされたのが3年前。
この稽古上がりにアルフに会って、そこで審査の日取りを言われるのではないかと思っていた。しかしもともと、いつどのように審査するかなど全く言われていない。
以後は集中力を欠いて、次の手合わせからはさんざん突き飛ばされボロボロになった。
稽古が終わるとオリビエに促され、砂まみれの防具をつけたまま、アルフの部屋に入った。
アルフはライティングデスクに向かっていた。
手招きされて近くとデスク上の白い封書が示された。
「紹介状だ」
「えっ」
クロードは青ざめた。
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