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不意に揶揄するような声が飛んできた。横に目をやると、カウンター席の端で壁に肩を預けるようにして座っている男が、深く被った帽子の鍔の下からこちらを見ていた。口の周りに薄く髭を生やして、耳にいくつもピアスをして、趣味の悪い刺繍の入ったスタジャンを着ている。二十歳前後の若者だ。
麺に箸先を差したまま手を止めて、相手の顔を見返した。いかにもヤンキーを気取ったような風体だが、容貌はどこか幼さを感じさせる。
「面白くないか?」
訊き返すと、若者は少し面食らったように半端な笑いを浮かべて、鼻を鳴らした。
「ねえよ。面白くなんか」
「だろうな。俺もそうだ」
「じゃ、何でそんな、マジな顔して見てんだよ」
「面白けりゃ、笑って見てるだろう」
「はぁ」
話のつながりが追えなかったらしく、帽子の若者は気の抜けた声を出し、テレビ画面に目を向けた。既に天気予報は終わって、人気の女優と子役が共演する食器用洗剤のコマーシャルが流れている。
狭上は再びラーメンをすすり始めた。麺は煮え過ぎで、汁の味も濃いが、蜆の旨味だけは悪くない。
「オッサン、見ねえ顔だな」
しばらく黙っていた若者が、また話しかけてきた。今度は手を止めずに応じる。
「この辺りに詳しいようだな」
「ここらはオレの庭みてぇなもんさ」
「じゃあ、知ってるか」
「何をだよ?」
「半年ほど前から、この先の道でハバをきかせてるっていう、ハイエナのことだ」
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