1日目

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 道路を挟んでそびえる山々は黒い影になっている。対岸にある上り車線側のSAにも同じような店明かりが点っているが、今にも山影に吸い込まれそうに見えた。向かいから見れば、狭上が立つこの場所も、背後の闇に呑まれかかっているのだろう。  飯屋に便所にロータリー、白線の消えた駐車場、その隅の寂れた給油所(スタンド)。高速バス待合所の跡とおぼしき小屋の残骸を背にして、ミニスカートから肉付きのよい脚をのぞかせた女が一人、突っ立って煙草を吸っている。辺りを照らす外灯の色はいかにも儚げに白く、ろうそくの火のように明滅していた。  その外灯の下、店から出た男たちが、駐車場にある各々の車に戻っていく。エンジン音が方々で唸って、ライトが点き、徐行を始める。  いずれも駐車場の出口のほうではなく、逆の方角へ向かっている。道路側に向かって右手の片隅に、どこかへ続く暗い通路が口を開けて、男たちの車を一台ずつ飲み込んでいくのだった。  ひと際大きなエンジン音が沸き上がった。店に一番近い駐車スペースに、単車にまたがる人影が見える。  薄暗い中でも見分けられるスタジャン姿は、先刻の若者に違いない。電話を終えて、店を出てきたようだ。帽子の鍔を後ろに回しただけで、ヘルメットもかぶらないまま発進し、彼もまた、連絡通路の奥へ走り去っていった。     
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