1日目

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 狭上はその方角へ足を向けた。駐車場に置いたコンバーチブルには乗らず、徒歩のまま、連絡通路の入口の近くまで寄る。案内板もなく、照明も点っていない通路の奥はカーブになっていて、滑り込んでいった車の後尾灯はすぐに視界から消えてしまう。  どうやらあの闇の先に、オアシスがある。  その手の歓楽場は、どこの地方のハイウェイにもあるものだ。かつては運転手の休憩所であったり、健全な観光施設であったりした建物は、高速道路が無法地帯と化すに従って廃屋となっていった。そこへ浮浪者が寝つき、賊が隠れ、生計に窮した女たちが身を寄せる。そうして商売が始まる。一般道であれば取り締まりを受ける類の営業も、高速警察(ハイポリ)は見て見ぬふりをするから都合がよいのだ。  スナガワに最北の大規模オアシスがあることは知られていた。もっとも日向の商売ではないから、表立って宣伝されているわけではないが、噂で聞くところでは、もともと観光案内所であったビルに多くの娼妓が集まって出来たものであるらしい。地方にしては客の数も多く、めっきり通行量の減った道央道(ドウオウ)で唯一の盛り場となっているという。  もっとも今、連絡通路の奥の闇に、噂の不夜城の姿は見えない。代わりに、通路の脇に沿う遊歩道のほうに、小さな明かりが点っているのが見えた。     
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