1日目

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 警告を受けていなければ、そこは他のどこよりも平穏な茶屋に見えたかもしれない。食堂にも明かりが点り、カレーの匂いが漏れていた。いくらか客も入っている。その数人の一瞥を受けながら、狭上は食券を店の親仁に差し出した。  脂の染みたカウンターに着いて、ぬるい水に口を付ける。新聞を開いたり、煙草をふかしたりしている面々を見渡せば、壮年以上の男ばかりだ。  お待ちどぉ、とくぐもった声がして、蜆の載ったラーメンがテーブルに置かれた。同じ程度に陰気な調子で、どうも、と答える。  湯気の向こう、壁の上の棚にはテレビが備え付けてあった。時折ノイズの走る質の悪い画面は、ニュース番組を映している。事件も事故も交通情報も、テレビ局が伝えるのは一般人の通る一般道の話題だけだ。この土地でも、ハイウェイで起こる諸々の事件は別世界の出来事として切り離されているらしい。  共有できる話と言えば、天気ぐらいのものか。週間予報は下り坂、しかしひとまず明後日まで降ることはなさそうだった。 「面白ぇかい、天気予報?」     
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