僕の最後の日

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僕は昔、身体が弱かった。 家族は皆、僕をとても大切にしてくれた。 だけど、君は僕に意地悪ばかりした。 いつも兄さんに怒って止められるまで、僕は君に泣かされていた記憶しかない。 だけど、仲直りする時はいつだって優しく抱き締めてくれた。 本当はひとりぼっちの僕を構ってくれてたんだよね、今なら分かるよ。 ...そんな君を好きになったのはいつからだろう。 分かんないや、ずっと前から僕はいつでも君の背中を追いかけていた。 そんな僕が君を追いかけなくなったのは僕が9歳の時。 母から教わったお裁縫をしていた時だった。 君の声が聞こえたんだ。 「俺、お前が好きだよ。」 ー君は兄さんが好きだった。 作ってたぬいぐるみはどこかにいった。 僕は押し入れに隠れて泣いていた。 泣き終わったら兄さんが、「アイツはバカだよ。」と言っていた。 ...僕はその日から君を追いかけるのを辞めた。 似ていないとよく言われていた優しい兄を追いかけた。 ー泣き虫な僕。 ーおしゃべりな僕。 頬っぺのそばかすと一緒に隠した。 ーお料理が苦手な僕。 ーお裁縫が好きな僕。 兄さんと料理をいっぱいしたし、 兄さんと外で遊んだ。 いつも君が一緒だったけど兄さんを追いかけた。 そうして僕は大人になった。 高校生の時、師匠...兄さんの友達のバーテンダーさんに憧れて弟子入りした。 飲めないから味はわからないけど、色と香りで何とかいろんなお酒を作れるようになった。 高校を卒業したらお店を持つのを夢見て毎日毎日、部活もせずに修行した。 ー卒業しても、未成年の僕はお店を持てなかった。 そんな時、君が僕を助けてくれた。 兄さんと仲良しな君はずっとそばに居た、だから困ってる僕を助けてくれたんだよね。 すごく感謝してる。 だって夜だけ自分のお店を持てたんだもの。 でもね、僕は君を追いかけない。 だって兄さんは、絶対待ってるでしょ? ー君が来るのをただ待ってる。 君が兄さんが好きだから、僕は兄さんになる。 僕は僕に1つ賭けをした。 僕が大人になるその日まで、僕は兄さんになる。 もしも...それまで君が僕を見てくれなかったら、僕は僕にさようならをするってね。 そして昨日、僕は大人になった。 バーテンダーを夢見ていた僕が、やっとお酒を飲めるようになったその日にさようなら。 ーそう思ってた。
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