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あれから慎ちゃんは僕にキスや添い寝を頻繁に求めてくるようになった。
あの日を境にすごく、すごく僕に優しくしてくれる。
慎ちゃんの部屋にいる時は。
「Aランチのスープ、Bランチのサラダです。」
「ありがとうございますー!」
「お兄さん、彼女とかいるんですかー?」
初めてのお客さん...女性二人組が慎ちゃんに話しかける。
隙さえあれば...って雰囲気がすごい...。
慎ちゃんは自宅の1階でカフェを運営している。
午前から夕方まではカフェ。夜は僕が運営するバーになる。
僕のバーは、固定のお客さん数名しかいないけど、慎ちゃんのカフェは人気だ。
予約席しかないのに、いつも満席なんだ。
だからお客さんが多い日は僕もホールの手伝いをする。
時々しか見ない僕でも女性ばかり来ることは分かる。
...僕はそれが余り嬉しくない。
「居ないですよ、彼女。」
「へ~じゃあフリーなんだ?」
「ねーねー!あたし達と閉店してから遊ぼうよ!」
外ずらのいい慎ちゃんが逆ナンされてる。
...恋人はいるのに、何言ってんだか...。
「閉店した後、明日の仕込みがあるからごめんね。」
「えー!残念~!」
「じゃあ連絡先教えて~!!!」
「ごめんね、携帯は持っていないんだ。」
他のお客さんの様子を見ながらも、慎ちゃんが気になって仕方がない。
...フリーだって思わせるから期待せるんだよ...馬鹿。
あ、慎ちゃんと目が合った。
「また来るから今度お茶しましょうよ~!」
「このお店、夜はバーなんでしょ!?
夜飲もうよ~♪」
「...俺と飲むと、狼になっちゃうからダーメ。」
「やだー!やらしい~!」
「あたし大歓迎よ~!きゃはは!」
...なにそれ。
飲んで酔っ払ったら本当に誰でもいいって言うの?
...信じられない...、最低。
いつもの胸の痛みが体を襲う。
つい眉間にシワが寄ってしまった。
「遙、体調悪いのか?裏で休んでろ。」
「...分かった。」
この店に裏なんてない。
部屋に行っていい、という合図だ。
部屋に戻るとベッドに倒れ込む。
痛い...胸が痛い...。
身体を丸めて胸を抑える。
「ばか。」
本当は女の子と話さないでほしい。
...兄さんのコピーの僕じゃなくて、
本当の僕を見てって言いたい。
でも言えない。
兄さんをコピーしたのは僕の勝手だから。
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