兄さんのコピー

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兄さんは本当は優しい。 慎ちゃん相手だから気が強いところがあるけど。 いつも僕を心配して自分のことは後回しな人だ。 だから定時で残業の少ないファミレスで働いている。 対して僕は自分のために慎ちゃんに迷惑をかけながら慎ちゃんのお店を借りている。 しかも全部自分のために。 ...だから兄さんになりきれない。 喋り方や仕草、癖を真似した見た目だけのコピーにしかなれない。 ...でも、ずっと努力してて良かったな。 慎ちゃんが、振り向いてくれた。 いや、違うかな...? きっと、1度間違いを犯してしまったから、加害者意識で付き合っているだけかも。 慎ちゃんが言っていた「酔って女も抱いてんだ」。 僕はそのうちの1人でしかない。 そう考えると涙が出てくる。 この10年で僕は大きな収穫をしていた。 目を擦らず、そのまま泣くのが1番泣いたことがバレにくい。目元が腫れないし、無理に涙を止める必要も無い。 慎ちゃんのカフェの閉店までまだまだ時間がある。 泣けるだけ泣いてしまおう。 この10年、自分を隠して兄を演じるのも、隠れて泣くのも上手くなった。 きっとよくない事だと分かっているけれど、慎ちゃん...ううん、慎さんに好きになって欲しくて。 少しでもいいから僕のこと、好きになって欲しくて始めたことなんだ。 実は兄さんにも何回も止められた。 慎さんが僕を驚かしたり、以前よりも酷いことを言ったりしてきたこともあった。 でも兄さんになりきって生きていくよ。 慎さんが昔、好きだった兄さんにね。 ...でもそのせいで一つ問題もある。 僕は兄さんが恋人とどう過ごしているのか知らない。 実はつい最近恋人ができたって聞いたけど...。 手を繋がれたらどう反応したらいい?抱き締められたら抱き締め返すの?...キスされたらどんな顔をしたらいいの? 分からないことだらけだ。 兄さんに今度聞いてみるしかないのかな...? そんなことを考えているうちに意識があやふやになり、眠りについていた。 きちんとベッドの布団をかけ忘れたまま。
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