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「マリア、大丈夫かっ」
ジクムントが顔を覗き込んでくる。
掘り深い精悍な顔立ち、切れ長の双眸、その奥にある澄んだ虹彩が迫る。
三年前よりもずっと大人びた、彫りの深い顔立ち。
同じ整っていると言ってもニオイスのように浮ついたものがなく、不用意に近づけばたちまち斬りつけられる鋭さがある。
マリアの鼓動が早鐘を打つ。
「マリア……」
「ジーク、様っ」
ジクムントに抱きしめられた。
呼吸するたび、かすかな汗の香りが鼻腔をくすぐる。
(ジーク様の、におい)
濃密な彼の香りに頭がクラクラしてしまう。
汗を額に滲ませ、涙ぐんだマリアを前にジクムントは何かに気付いたらしい。
「あいつに薬を飲まされたのか。そうなんだな」
マリアは小さくうなずく。
「……侍医から話は聞いていた。もし薬を飲まされていたら、抜けるのに時間がかかるだろう、と」
マリアは肩で息をしながら小刻みに震えている。
身体の底でくすぶる懊悩の火種が、ジクムントが間近にいることで大きくなってしまう。
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