第一章 都からの使者(1)

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「女?」  ぴりついた空気を瞬時に察し、マリアはこうべを垂れた。 「私はエリントロス伯爵家のマリア・デ・エリントロスと申します」 「エリントロス……?」  兵士は要領を得ない顔をする。  伯爵の位を戴いていても田舎貴族の知名度は無いに等しい。 「マリア様っ」  と、この基地に常駐している顔見知りの中年兵士が駆け寄ってくる。 「こちらはトルシア州のご領主様の娘さんです。病がちなお母上に代わってご領主として の政務を代行されているのです」  若い兵士たちは槍の穂先を持ち上げた。 「そうでしたか。しかし、そのような方がどのようなご用件でしょうか」 「実は隊長様と治安についての情報交換を……」  中年の兵士はうなずく。 「そうでしたか。申し訳ございません。今現在隊長殿は別件にて手が空いておりません。日を改めて頂きたい」 「お嬢様、私が途中までお送りします」 「分かりました。お願いします」  マリアは「ご苦労様です」と若い兵士たちに頭を下げ、軽快に馬へ(また)がった。  中年の兵士が馬の(くつわ)を取って歩き出す。
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