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「すみません。悪い時に来てしまったようで……」
「いえ。我々も突然知らされて驚いたんです。実はつい先刻、王都より国王陛下の使者が参りまして」
「そうでしたか。やはり」
「やはりとは?」
「あ、いえ、何か物々しい雰囲気がありましたので、高貴な方がいらっしゃっているような気がしたのです」
「ああなるほど。……そういう訳でして、しばらくは色々とゴタゴタするかと思いますので近づかれない方がよろしいかと存じます」
「分かりました。色々と教えて下さってありがとうございます」
「いえ」
中年の兵士に見送られ、基地を離れる。
(やはり、あれは中央の兵士……だったのね)
かつて王都で暮らしていたマリアにとってはある意味懐かしさを含む物だった。
何よりあの真剣で澄んだ眼差しからは自らの職務への誇りが色濃く、にじんでいた。
こんなことを言うのはおかしいが、田舎に派遣された兵士はやる気に欠けた人間も多いのだ。
(あれはもしかしたら王の近衛では?)
そんな可能性まで考えてしまう。
(でもこんな所に何の用があって?)
国王、ジクムントが自らに反抗する貴族たちを討伐し続けていることは有名である。
その残党がこの辺りに出没したと言うことなのだろうか。
(とにかくお母様にお話ししなければ)
マリアは馬腹を蹴り、屋敷へ急いで戻った。
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